PHP では関数とメソッドはだいたい同じ形式で、メソッドは単にスコープが限定された関数でしかありません。 つまり、そのメソッドが属するクラスエントリのスコープになるということです。 クラスエントリについては、このマニュアルの別のページで説明します。 このセクションの目的は、関数やメソッドの内部構造を紹介することです。 関数を定義したり、変数を受け取ったり、PHP プログラマーに値を返したりする方法を説明します。
関数の内部構造は、それほど単純ではありません。
PHP_FUNCTION(hackers_function) { /* 受け取る引数をここで指定します */ long number; /* 引数を受け取ります */ if (zend_parse_parameters(ZEND_NUM_ARGS() TSRMLS_CC, "l", &number) != SUCCESS) { return; } /* 何かの作業をします */ number *= 2; /* 戻り値を設定します */ RETURN_LONG(number); }
プリプロセッサの PHP_FUNCTION(hackers_function)
命令は、 次のような宣言に展開されます。
void zif_hackers_function(INTERNAL_FUNCTION_PARAMETERS)
INTERNAL_FUNCTION_PARAMETERS
はマクロとして定義されており、 次の表のようになります。
型と名前 | 説明 | アクセス用マクロ |
---|---|---|
int ht | ユーザーから実際に渡されたパラメータの数 | ZEND_NUM_ARGS() |
zval *return_value | PHP 変数へのポインタ。ここに、ユーザーへの戻り値を設定します。 デフォルトの型は IS_NULL です。 | RETVAL_* , RETURN_* |
zval **return_value_ptr | PHP に参照を返すときには、ここに変数へのポインタを設定します。 参照を返すことはお勧めしません。 | |
zval *this_ptr | メソッド呼び出しの場合は、$this オブジェクトを保持する PHP 変数を指します。 | getThis() |
int return_value_used | 返り値を呼び出し元が使うかどうかを示すフラグ。 |
明確にするために、完全に展開した PHP_FUNCTION(hackers_function)
のドキュメントを示します。
void zif_hackers_function(int ht, zval* return_value, zval** return_value_ptr, zval* this_ptr, int return_value_used)
this_ptr
の存在を奇妙に感じるかもしれません。クラスの詳細は後ほど説明するとして、ここでは PHP_METHOD(MyClass, hackersFunction)
の結果が次のような宣言になることを示しておけば十分でしょう。
void zim_MyClass_hackersFunction(INTERNAL_FUNCTION_PARAMETERS)
hackers_function
は特に凝ったことをするわけではなく、zend_parse_parameters
API を使って受け取った数値を二倍して、それをエンジンに返すだけです。 普通は、単に入力を二倍するだけなどではなく、もっと複雑な何かを行うことでしょう。 ここでは、説明のために、できるだけシンプルにとどめました。 関数に入った際に return_value
を確保し、null
に初期化されます。 これで、PHP の関数のデフォルトの返り値が null
となります。
Hacker
が正しい引数として指定する内容を zend_parse_parameters
が受け取れず、受け取った引数を type_spec
を満たす形式に変換できなかった場合は、エラーを発生させます。 そして、Hacker
はその場で return
しなければいけません。
注意
Array
、Object
、そしてResource
は変換できません。
int zend_parse_parameters(int num_args TSRMLS_DC, char *type_spec, ...) |
int zend_parse_parameters_ex(int flags, int num_args TSRMLS_DC, char *type_spec, ...) |
int zend_parse_parameter(int flags, int arg_num TSRMLS_DC, zval **arg, const char *spec, ...) |
注意
zend_parse_parameter
はバージョン 5.5 以降で使用可能で、zend_parse_parameters_ex
と同じような挙動です。 ただ、引数をスタックから読み込むのではなく、変換対象の zval を受け取って、その場で変換します。
注意
flags
はマスクとして扱うことを想定しています。現時点で有効なフラグはZEND_PARSE_PARAMS_QUIET
だけです (これは、警告を抑制します)。
これらの API 関数から受け取る可変引数は、C の変数のアドレスであることが期待されています。 また、zend_parse_parameters
API 関数の出力であると考えなければいけません。
指定子 | 型 | ローカル |
---|---|---|
a | array | zval* |
A | array あるいは object | zval* |
b | boolean | zend_bool |
C | class | zend_class_entry* |
d | double | double |
f | function | zend_fcall_info* , zend_fcall_info_cache* |
h | array | HashTable* |
H | array あるいは object | HashTable* |
l | long | long |
L | long (LONG_MAX/LONG_MIN の範囲に収まるもの) | long |
o | object | zval* |
O | object (指定した zend_class_entry のもの) | zval* , zend_class_entry* |
p | string (有効なパス) | char* , int |
r | resource | zval* |
s | string | char* , int |
z | mixed | zval* |
Z | mixed | zval** |
注意
型指定子が
O
の場合、ローカルのzend_class_entry*
はzend_parse_parameter
への入力 (型指定子の一部) と見なされます。
指定子 | 説明 |
---|---|
* | 直前の型の引数が 0 個以上 |
+ | 直前の型の引数が 1 個以上 |
| | 残りのパラメータは任意である |
/ | 後に続くパラメータを SEPARATE_ZVAL_IF_NOT_REF します。 |
! | 直前のパラメータが、指定した型あるいは null のどちらかになるものとします。 'b'、'l'、'd' の場合は、対応する bool* 、long* 、double* の後に zend_bool* 型の引数を追加する必要があります。null を受け取った場合は、ここに true が設定されます。 |
注意
パラメータのパースについての詳細は、ソース配布物に含まれる
README.PARAMETER_PARSING_API
を参照ください。
一度 Hacker
の関数が実行されたら、実行するよう実装されているかどうかにかかわらず、エンジン向けの return_value
を設定します。 RETURN_
マクロと RETVAL_
マクロは Z_*_P
の単なるラッパーで、return_value
と組み合わせて使います。
注意
RETURN_
マクロはその場で関数の実行を終了します (つまり、return;
します) が、RETVAL_
は、return_value
を設定してからも実行を続けます。
これで、関数の仕組みについて、それなりに理解できたことでしょう。 メソッドの仕組みについても、ある程度は理解できたはずです。